園長就任にあたって
私はこれまで子どもからおとなまでの「生涯学習」という視点から、国内外の様々な現場にかかわりながら、教育のあり方を研究してきました。そのなかですばらしい実践にたくさん出会いながら、本当に子どもたちの幸せにつながる教育とはどういうものか考えてきました。そして保育者・教育者の育成にかかわる中で、縁あって保育園をつくる機会をいただき、仲間たちとどんな教育・保育をめざすか、話し合ってきました。そのなかで私が園長としてめざしたいことを、「ののはな」にたとえて、三つ挙げたいと思います。
一つ目は、子どもが「信頼の根っこ」をしっかりと張る環境をつくることです。子どもたち、とくに乳児にとって、自分が生きる世界が愛情に満ちた信頼できるものだという感覚を育てることが特に大切です。そのため私たちは徹底して少人数の保育担当制をとり、保育園での生活をもう一つの家庭として過ごし、安心できる関係をつくることを目指します。効率的ではなくても、ゆったりと一人ひとりの子どもにかかわることができるように、あたたかい環境と落ち着いた日課をデザインします。そして子どもが安心して人と関わることで、じっくりと土の中に生きていく根のように信頼を伸ばせるようにします。
二つ目は、子どもが「意欲の葉っぱ」を、のびのびと伸ばすことを応援することです。学びの一番の原動力である興味・関心は、乳幼児期にはあふれています。子どもたちは身の回りの探索から、無数の問いかけを発見し、遊びのなかで無限の好奇心を発揮します。私たちはその意欲を引き出すために、選びぬいた玩具・絵本・音楽を準備して、工夫して想像力を広げるような遊びの世界に、夢中で没頭する時間を大切にします。表面的な知識や動きを「教え込む」のは簡単ですが、遠回りに見えても光に向かって茎や葉をしっかり成長させていく草花のように、のびのびとした雰囲気をつくりたいのです。
三つめは、子どもが「笑顔の花」を咲かせられるような、幸福感・達成感を日々感じ、保護者の皆さんと一緒に喜ぶことを目指します。現在の日本の教育のもとでは、自分に自信をもち幸せだと感じる子どもが、残念ながら非常に低いという調査があります。私たちは集団行動で他の子と比べるよりも、多様性を大切にし、その子それぞれのよさを伸ばすことに力を注ぎたいと思います。そのために保育者がほめて育てる「ポジティブな保育」を心がけ、子どもの「できた!」という達成感を大切にしていきます。そして「自律」する自信と喜びを積み重ね、心からの笑顔の花をたくさん咲かせたいと思います。
そのためにさまざまな優れた保育実践から謙虚に学び、同時に新しい試みにも、研究と研修を重ねながら慣習にとらわれず挑戦していきます。直接子どもにかかわる保育者たちには、こんな保育園をつくりたいと語りあってきた、子どもたちとまっすぐ向き合うことができる素晴らしい仲間が集まってくれました。「ののはな保育園」には、子どもたちが優しくたくましく野で育ち、色とりどりの花を咲かせる場をつくりたいという願いを込めました。保護者・職員・地域のみんなで、子どもたちの笑顔を咲かせていけるよう、全力を尽くして参ります。よろしくお願いいたします。
吉田正純(よしだ・まさずみ)
1972年北海道生まれ。京都大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。京都大学大学院教育学研究科特任助教、京都聖母女学院短期大学児童教育学科講師を経て、現在、NPO法人花紅代表理事・ののはな保育園園長、大阪大学非常勤講師。日本社会教育学会、日本子ども学会所属。保育士資格保有。